NoName

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どしゃ降りの雨を見上げて、ついてない、なんてため息。
すっかり空になった懐も、跳ね返りが冷たいズボンの裾も。
まるで泣いてるみたいだなぁ、なんて、どこか他人事で。

傘、どこに置いてきたっけ?

出掛ける前に渡された、安っぽいビニル傘は、乗り継いだ電車の中に忘れたかもしれない。
とにかく、どう帰ったらいいんだろう。
こんな時に限って使いきってしまったカードを眺める。
なけなしのお金で買った煙草に火を着けて、早く止まないかなぁ、なんて。

そんなことを思っていたら、すっと差し出された何かに顔を上げる。

「……やっぱりこうなってると思った。ほら、帰りますよ」

呆れ顔の君にちょっとだけ驚いてたら、ぐいっと腕を引かれて。
歩き出した君の手には、もう1本の傘。
でも、わざと言わないのが君らしくて黙ってた。

”相合傘”で帰ったその日は、最低で最高の日になった。



相合傘

6/19/2023, 11:35:45 AM