一森くま

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「もう、会えないと分かってたら

大切にできましたか?」


雨の降る晩、私の枕元に来て

問いかけてきた いつかの女の子。


私は何と言っていいのか分からずに

目を閉じながら、じっとしていた。



…ありがとう、と言いたいのに

言いたかったのに 言えなかった。


またあの時に戻ったら

ありがとうって言えたのかな?

また同じように壊れていたんじゃないのかな。




あの人が過ごしただろう壮絶な人生を想像すると

さっき病室で見た、赤ちゃんに戻っていくような寝顔は

この世での戦を終えて、次の目的や目標に向けて

備えているようなそんな感じもした。


 

もうきっと、喋れないんだな。

もうこの世界では…






朝起きると、枕がぐしゃぐしゃに濡れていた。

不思議な爽快感と焦燥感に駆られながらカーテンを開けた。
 
スズメが一斉に羽ばたいた。

数十羽は居ただろうに、一瞬でいなくなってしまった。






鳥のように、もうすぐあの人は旅立つ。


あなたに大切にできなかった分を、誰かに

そしてあなたからもらった希望と命を糧に

あの女の子だった私に微笑んでくれたことを思い出して


今、心のなかで ありがとう って叫んでる。

   




8/21/2024, 4:44:54 PM