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『私だけ』



「私だけってって言ってたじゃん」
今、俺の目の前には、頭が痛くなるくらい甲高い声で泣き叫ぶ女がいた。どうやら俺が他の女と出かけたことが気に食わないらしく、何度なだめても聞く耳を持たず、ヒステリックは止まりそうになかった。そもそも俺たちの関係はコイビトだとかオトモダチだとかそんなものでは一切なく、大人の関係を持つだけの仲、所謂セフレみたいなものだった。
俺には何人もそういう仲の女がいるし、この女もそれを理解した上で俺に近づいてきた。それなのに今更詰められたってどうすることも出来ないし、わざわざこちらが優しくする必要性も感じない。
「面倒臭い女は嫌いって言わなかったっけ」
わざと大きくため息をついてみると、女は涙を流し続けながら俺のズボンの裾を引っ張ってくる。あぁ、気持ちが悪い。これだから面倒臭い女は嫌いなんだ。
「離せよ。俺たちはもうお終い。やり直すこともなければ二度と会うこともない。じゃあ、さようなら」
女の肩を強く押し、ズボンから手を離させて言葉を放てば、女は、絶望という言葉がピッタリな表情で俺を見つめて、ごめんなさいと謝罪の言葉を繰り返し始める。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの。ごめんなさい、ごめんなさい」
耳障りな声で、気持ちが悪い顔でねだられても、泣かれても、可愛さなんて感じられなければ何とも思えもしない。むしろ、彼奴を思い出して気分が悪くなる。男に泣いてすがって、依存して、そして馬鹿を見た彼奴を。
ただひたすらに気持ちが悪かった。どうしてそんなに低脳で何も出来ないのか、俺には理解出来なかった。
「私なら、私だけが、蓮くんの全部を愛してあげられるっ」
突然、女がそう叫んだ。
全部を愛す?この女は一体何を言っているのだろうか。俺の全てを知っているわけでもないくせに何故そんな事を言い切れるのだろう。そもそも俺は誰かに愛されたいだなんて微塵も思わないし、愛したいとすら思わない。愛なんてものは残酷で、気持ちが悪くて、嘘にまみれている。そんなものを信じ
ることなんて出来るわけがない。信じたくもない。
信じたってどうせ、時の流れと共に愛は薄れ、移り変わり、失われ、みんな離れていくのだろうし、実際、みんな離れていった。

だから俺は愛されたいだなんて思わない。思いたくない。なのに。
どうしてか彼女を見ていると、愛したいと、愛されたいと思ってしまう。もう誰も信じないと決めていたのに。
俺だけ見てほしい、俺だけ愛してほしい。
そんな気持ちが悪いセリフは言いたくないのに、想いが溢れて爆発しそうだった。
離れていかないで、捨てないで、忘れないで。
そんな想いが溢れて、自分でもどうしようも出来なくて、酷く苦しい。苦しくて息がつまる。この感情を寂しいと言うのかもしれない。
そして俺はまた、女を作る。負のループだって、辞めるべきだって自覚はしてるけれど、辞められない。辞めたくない。
もし仮に遊ぶのを辞めた時、一体何人が離れないでいてくれるのだろうか。誰が俺を見てくれるのだろうか。誰が俺を愛してくれるのだろうか。誰にも愛して貰えないのは酷く怖い。

考えるのはもう辞めよう。俺はただ、好きに生きるだけ。やりたいようにやるだけ。俺が辞めなければ女は増え続けるし、満たされ続けるんだ。
俺はちゃんと、シアワセだ。

7/18/2024, 1:21:32 PM