一ノ瀬

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 木枯らしは、終わりの合図だと僕は思う。木々が自分の体の一部を切り落とす。その手伝いをするような風。季節の終わり、生命の終わり。
「木枯らしは始まりなんだよ」
 先輩は僕と真逆のことを言った。その目はこれ以上ない慈愛に染まっている。
「それまで枝から離れられなかった葉っぱが、ひとりで風に乗って遠くまで行くんだ。独り立ちするんだよ。旅の始まり、人生の始まり」
 葉の一枚一枚に生を見るか。それはずいぶんと大所帯な。
 視線の先には一本の木がある。立派な木だ。強い風に揺さぶられ、剥がれた葉が舞い踊る。今まで自分を支えるようにそびえ立っていた木はもう近くにはない。他者から強制的に与えられる独り立ちは、辛く寂しくはないだろうか。
「僕が風に乗って飛んでいっても、先輩は笑顔で見送ってくれそうですね」
 そんな呟きには、驚くような顔をした。
「君は葉っぱじゃなくて、ひとりで立つ木だよ」
 その言葉がどんなに僕を喜ばせるか、先輩はきっと知らないだろう。でも、だからこそ、僕はやっぱり一枚の葉なのだと思う。ちょっとやそっとじゃ揺れない大樹の、その庇護下にありながら、最後は素敵な旅をと祈ってもらえるなら、それ以上はどこにもない。

1/17/2026, 5:08:51 PM