「冬が来るねえ」
息が白くなり始めた朝。電車を待つ駅のホームで彼女は言った。
「そうだね、僕、寒いの苦手だなー」
僕が、冬の朝のベッドのぬくぬくとした誘惑を思い出しながら言うと、
「私もだよ、……でもね…寒いとね、くっつけるよね。歩いてる時もこんなふうにさ」
ずぼ、いきなり背後から制服のブレザーのポケット、両方に手を突っ込んでくる。
「わ、びっくりしたあー、何々?急に」
「あははー、びっくり? こんなふうに彼氏のポケットで手をあっためてもらうの、夢だったんだ。お付き合いしたら」
照れくさそうに笑う。
うーん、可愛いなあ。でれっと鼻の下が伸びる自覚はある。
「一つのマフラーで、ぐるぐる首を巻こうか。二人分」
「ホットのレモネード、ストローで一緒に飲むとか」
「んもー、それじゃあただのいちゃいちゃリストみたいじゃないのよー」
あはは。うふふ。僕たちは胸をときめかせて、冬の訪れを待ち焦がれた。
……でも。その季節がくる前に、僕らは別れた。些細なことがきっかけで、喧嘩になって。そんな人だとは思わなかった、それはこっちのセリフだよ、と、口論がエスカレートして、あっけなく。
別に彼女に未練はないよ。でも、
冬の季節に隣に誰もいないのは、さびしいものだね。ポケットに手を突っ込む彼女の小さい手を、手袋をはめる時、ふと思い出したりするんだ。
秋の終わりに。
#冬になったら
11/17/2024, 10:55:09 AM