星を追いかけて
①星へ駆ける
馬にまたがり、彼は星を追っていた。
目指すはあの一番輝く星。
冬の夜空に、どの星よりも早く光るあの星だ。
彼は信じていた。あの星に追いつけば誰も見たことのない世界にたどり着けると。
「星に追いつこうなんて馬鹿げてる」
大人たちは笑った。
けれど彼は走った
だって、追いつく気でいたからだ。
未知の果てに何があるか知りたかった。
馬の脚が地を蹴るたび、空気を裂いて進んでいく。
視界に入る景色は次々と背後へと流れ、
冷たい風は熱に吹き飛ばされた。
「星が逃げるなら、僕が速くなればいいだけだ!」
走れ、もっと速く、前へ進め。
彼の胸の奥で、未知への渇望が燃えている。
それが燃え続ける限り、星は遠くない。
大人たちが笑う中、彼は夜空の奥へと消えていく。
ほら、見ただろう?
一瞬、星が彼の頭上で大きく瞬いたのを。
追い続けることで、それは彼の道になったんだ。
②彼女の星
「未練があるなら、追いかけてきてもいいよ」
彼女はそう言うと舞い上がり夜空に消えていった。
風変わりな子だった。
地球には調査に来たのだという。
「何の調査?」
「決まってるじゃない、地球人についての調査」
「じゃあ僕は調査対象というわけだ」
「そのようね」
「何か分かった?」
「地球人はNetflixとガリガリ君が好き」
「そうとも限らないさ」
「あとキスが下手」
地球人代表として大変申し訳ない。
僕のキスは下手だけど、キスが上手な人もたくさんいるって。
もし何億光年か先、君に再び地球人の恋人ができたとしたら、その時はキスがうまい相手だといいね。
ただ言い訳をするならば、彼女のキスはとても……コズミックすぎるというか、ここに書くのも憚られるようなものだった。
まるでブラックホールに吸い込まれるような。
ともかく彼女は夜空に消えた。
ーー未練があるなら、追いかけてきてもいいよ
そんな言葉を残して。
しまった、どの星か聞き忘れてしまった。
これじゃあ、追いかけようがないな。
ロケットもないし。
なんて追いかけない理由を幾つも並べて、僕は夜空を見上げる。
この夜空に無数に散らばる星の何処かに、彼女の星がある。
彼女のことを想いながら、僕はいつまでも夜空の星達を見上げていた。
7/22/2025, 5:15:29 AM