燈火

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【moonlight】


忙しなく家を出る二人の姿をよく覚えている。
あの人たちはテレビの中で生きる、遠い存在。
父ではなく、大物俳優。母ではなく、人気アイドル。
二人が親になるのは年に一度、僕の誕生日だけ。

それでも僕は二人のことが大好きだった。
出演する番組は必ず録画して何度も見返す。
中学生になって、僕は俳優の道を志した。
芸能界なんて、と言いつつ二人は応援してくれる。

僕は出自を隠したまま、小さな劇団に入団した。
芸名で活動する二人と僕の関係を知る人はいない。
親の名を出せば、きっと簡単に有名になれるだろう。
でも、そうして得た名声に何の意味がある。

劇団とバイトの合間にオーディションを受ける日々。
先輩の厳しい演技指導を受け、仲間と励まし合う。
苦しい思いばかりの中でも充実感で満たされていた。
堅実に練習を繰り返し、少しずつ実績を積んでいく。

実力が認められ、テレビ出演が活動の中心になった。
そして敬愛する監督の映画への出演が決まった矢先。
『衝撃! 話題の俳優はあの大物夫婦の一人息子!』
下世話なゴシップ誌が、隠していた事実を暴露した。

親の七光りで売れた二世俳優。
そのレッテルは十分すぎるほど僕を貶めた。
「どうりで」業界内の噂も世間の声も冷ややかだ。
必死に築いてきた信頼はこの程度だったのか。

恵まれた出自に甘えず、努力を続けてきたつもりだ。
現場で暗い表情を隠せない僕に、監督が言った。
「お前の親が犯罪者でも俺はお前を選んだぞ」
さすがに親に失礼だけど。なんか、心が軽くなった。

10/6/2025, 8:09:21 AM