線路の上に立ちすくむ。霧がかった地平線に向かっていたはずの足は止まり、ただ呆然と立ち尽くしていた。
今戻ればきっとまだ間に合う。でも戻ったところで、誰もいない。
ぐしゃり、1歩足を出してみた。石ころを踏んずけて、独特な音がする。
「お兄ちゃん、お家、かえろう」
そんな声が聞こえた気がして後ろを振り向く。遠くの方に見える、もういないはずの妹。
「まだはやいよ、お兄ちゃん」
まだ、そっちに行かせてくれないのか。
まだ、この世界で何をしろと。
まだ、会わせてくれないの。
「お兄ちゃん、𓏸𓏸からのおねがい」
おねがい、かぁ。お兄ちゃんな、その言葉にめっぽう弱いんだ。何でもお願い、聞いてあげるから、だから、
戻ってきて。
「……院長!意識が戻りました!」
「おぉ!それは良かった。××さん、調子は…」
あぁ、またこっちの道に来てしまったのか。でもおねがいだからな。お兄ちゃん、もう少しだけ歩いてみるよ。
『岐路』
6/8/2024, 11:37:06 AM