三羽ゆうが

Open App

線路の上に立ちすくむ。霧がかった地平線に向かっていたはずの足は止まり、ただ呆然と立ち尽くしていた。

今戻ればきっとまだ間に合う。でも戻ったところで、誰もいない。


ぐしゃり、1歩足を出してみた。石ころを踏んずけて、独特な音がする。

「お兄ちゃん、お家、かえろう」

そんな声が聞こえた気がして後ろを振り向く。遠くの方に見える、もういないはずの妹。

「まだはやいよ、お兄ちゃん」

まだ、そっちに行かせてくれないのか。
まだ、この世界で何をしろと。
まだ、会わせてくれないの。

「お兄ちゃん、𓏸𓏸からのおねがい」

おねがい、かぁ。お兄ちゃんな、その言葉にめっぽう弱いんだ。何でもお願い、聞いてあげるから、だから、



戻ってきて。




「……院長!意識が戻りました!」

「おぉ!それは良かった。××さん、調子は…」


あぁ、またこっちの道に来てしまったのか。でもおねがいだからな。お兄ちゃん、もう少しだけ歩いてみるよ。


『岐路』

6/8/2024, 11:37:06 AM