白糸馨月

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お題『誰かのためになるならば』

 宿題を提出して、返ってきたノートの中身はなにが書いてあるかわからないほど、字が汚かった。
 その時提出したノートが新しく変えたばかりのもので、多分名前を書き忘れたんだと思う。
 俺が持ってるノートはよりによって俺が今使っているものと同じで、ただ字が汚すぎて先生が名前を読めなかったのだろう、だから俺ともう一人のところに適当に返したんだ。
 うっかりしていた。
 解読できないノートを手に、俺はノートの持ち主を探そうとすると

「Aくん」

 と話しかけられた。話しかけてきたのは、クラスどころか学年で一番勉強が出来ないBだった。Bの手には俺と同じノートがある。

「あ、それ」
「うん、返しに来た。多分Aくんかなと思って。ノートの内容が分かりやすい、さすが」

 あぁ、見たのね、俺が授業で言っていること以外もメモしているノートを。まぁ、俺も人のこと言えないわけなんだけど。褒められて嫌な気分にはならない。

「はぁ、どうも」
「それでさ、俺に勉強教えてくれない?」
「ん?」

 Bが手を合わせて俺に拝んでいる。まぁ、あのノートの取り方じゃ無理ないだろうな。そりゃ学年最下位になるわけだ。本人なりに危機感を持っているらしい。仕方ない、褒められたついでに引き受けるか。

「危ないんだろ、進級」
「そ、そうなんだよ! マジたすかるわぁ!」
「さっそくだけど、放課後あいてる?」
「えー、放課後……テスト直前じゃだめ?」
「このノートの取り方じゃ、テスト直前ですら間に合わないぞ」
「えー、だって授業眠いし」
「なるほど、だからそんなミミズみたいな字を」
「あ、ひどくね!?」
「でも、留年したくないんだろ?」
「う……」

 よりにもよって学年最下位のやつとのノートの取り違えからまさか勉強を教えるはめになったけど、誰かのためになるならばそれも悪くないかなと思った。

7/27/2024, 4:18:16 AM