杙里 みやで

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「未来」

「未来なんて、想像つかないや」
そう口にする彼女の机には進路希望書が置いてあった
僕たちは今、受験生だ。受験とは将来の夢において、今後の人生において、尤も大切となってくるモノ。
"自分達のなりたいもの"になる為に、精一杯取り組まなければならない。
「未来なんてのは行き当たりばったりで十分だよ。今が楽しかったらそれだけで十分だし、世の中を生きて行くために最低限の知恵と学歴があればいい」
彼女が零す言葉の数々は余りに、聞いていられるものではなかった。彼女の言い草はまるで、死ぬために生きている。と言わんばかりのものだったから、彼女の考えは僕にとって、受験や人生に対する「言い訳」としか聞こえないのだ。
「気持ち悪い。」
思わず、そう呟いてしまった。
別に悪気はない。ただ言葉が漏れてしまっただけ、本当にただ、それだけなのだ。
「なんか言った?」
彼女が僕の方を見て問いかけてくる。
嗚呼気持ち悪い。楽観主義者のその目、言葉を紡ぐその口も、音を掻き集める耳も、彼女を構成するもの全てが気持ち悪い。
こんなのが同じ人間とは思えない程に見ているだけで吐き気がした。
「別に。」
言葉には、会話したくない。という念を込めて、彼女に言葉を返す。

僕に拒絶の声色をされたのが驚きだったのか、彼女は目を見開いた。そして、それが大きな笑いへと転換された。
「君、面白いね」
笑いながらそう呟かれた言葉。嗚呼気持ちが悪い。
何が面白いのかさっぱり分からない。
僕がそう目で訴えると、彼女には更に笑われた。

彼女がまた、口を開く。

「だって、もう未来は無いのに何を決める必要があるの?」

さっきの笑顔からは一転。彼女の顔から表情は消え失せていた。

「未来は、」
そう言いかけて、思い出した。

ここは学校なんかじゃない。家でもない。
精神病院の病室だ。
進路希望書なんてのはとっくの昔に白紙で提出した。
もともと僕は病弱だった。
それ故色んな薬を飲むうちに、精神がおかしくなっていた。

だから"彼女"なんてのは、はなから存在しない。

つまり、彼女の言っていた事が僕の本当の本心で、僕の言っていたことは、ただの綺麗事に過ぎない。

「僕の人生は死ぬために生きている。」

自分で言っていて、アホらしくなった。
自分は所詮、精神患者なのだから。

6/17/2024, 12:17:09 PM