t「君の声がする」
夜が残る早朝、海のゆれる音と髪を淡く揺らす風が吹く浜辺を一人歩く。冷たくもぬるくもない気温が肌に触れて、まとわりつくように重い砂が次への一歩を邪魔する。
海と砂浜が混ざるか混ざらないかの場所で地平線を眺める。
風に煽られて海が踊り、その音だけが鼓膜をくすぐる。時間や季節によって魅せる顔が違うのが好きで、何度もここに足を運んだ。
ふと波に足を溺れさせる。このままいける所まで行っても構わないかな、と思う。大好きな、大切な存在にずっと騙されていたい。望まない結果と飲み込めない現実の狭間で、はっきりとしない曖昧な感覚に陥る。
波がひと際強くうねり、海の奥から突風が吹き荒れる。その勢いに勝てるわけもなく、浜辺へと導かれるように体ごと動かされる。
''ダメだよ"海が好きだった君の声がする。もう君はいないのに。
2/16/2025, 12:11:07 AM