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 この頃、街中を歩いていると、ふっといい香りが漂ってくる。あっと思って辺りを見渡すと、キンモクセイの木が近くにある。ちょうど満開の時期らしく、オレンジの小さな花がこぼれんばかりに咲いている。

 小学生の時、近所に大きなキンモクセイの木があった。まるでクリスマスツリーのような形で、花が満開になると、木の周りをぐるりと取り囲むようにオレンジ色の輪っかができた。土の焦げ茶に映えるオレンジが美しく、まるで美しいカーペットのようだった。

 その大きさだから、香りも他のより何倍も強く感じられた。甘く温かみがある芳醇な香り。すっかり魅了されて、この香りをいつも嗅いでいたいと思った。いくつか花を拾って持ち帰った。水を少し入れた小さなガラスの瓶に入れてみる。コルクの蓋を開けると、かすかに香った。あの量じゃないとあの芳醇さは出ないのかなと思った。

 キンモクセイの香りがすると、どこかノスタルジックな気分になる。夏の暑さも、色々な想い出もすべて放出していくかのように漂っている。


「キンモクセイ」

11/5/2025, 5:56:54 AM