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友に聞かれたことがある。
「お前は何の為に生きているんだと」
私は答えた。「私は矛盾に生きているのだ。」
友は感嘆した様子で「もう良い」と部屋を出て行った。
その時から私は世捨て人となった。もう良い。俗世など行く必要はないのだ。私はここで生きここで死ぬ!と誓った。
だが現実は違う。誓いは破られた。何故なら私は今、人が溢れる雑踏に立っているのだから。
こんなこと、一体、誰が想像できただろう。私も思いもしなかった。
私はただ自宅の一部屋しかない汚部屋で一生を過ごすと見目麗しい月に誓ったはずだ。そんな籠城の意を決した世捨て人の私が何故、外を練り歩いて居るのか。それは私の居城に届いたあるバカップルの一言であった。
「こんな楽しいお祭りに参加しない人なんているわけないよね。仮にいるとするなら絶対ヒキニートだろw」といった内容であった。この一言だけなら大した意味はない。しかし「奇人、変人、道化、愚者、馬鹿、阿保、間抜け」、この世に存在する侮蔑の言葉を欲しいままにした過去を思い出して決心したのだ。
こんな言い掛かりに屈して良いのか。私に対する疑念を払拭せずそれでもお前は世捨て人なのか。そう私は奮い立ち雄々しく外へと踏み出し今に至る。
大事なことなのでもう一度言いたい事は私が有象無象のヒキニートでバカップルの一言で深くその脆いガラスの心を砕け散らし友に散々に馬鹿にされてきた過去を思い出し僅かな己の虚栄心を震わせたからでは無いのだ。
確かに私は親から金をもらっているがそれは仕送りではなく私の人徳に深く心を打たれて是非とも私を支援したいが故の金を私がその心中を察して何も言わずに受け取っているに過ぎない。
親からの嫌悪を宿した顔も「さっさと就職しろ!このバカ息子」という言葉も全て私の心理的リアスタンシスを活性化させ、働かせまいとしているからこそくるものなのである。
そして我が居城に籠城しているのも私が世捨て人だからであり、世俗に塗れた人間たちを儚んで物忌しているだけである。
つまりこの二つの理由から私はヒキニートではなぁい!という主張を更に確固たるものとする為こうして歩いているのだ。
手始めに肩慣らしといこうか。
私は金魚すくいとデカデカと書いてある店に意気揚々と入っていった。だが金魚が掬えぬ。何だ、この薄っぺらい紙はこれでは金魚が取れんではないか!
どうすればもっと多く金魚たちをすくえるのだろうか。私は悩みそして気づいた。
わざわざこんなチンケなものを使って取る必要はないじゃないか!早速、案を実行した。それは容器でそのままダイレクトに金魚を掬うことである。思惑通りサクサクととって気分が上がっていると店の主人が何やら怒った様子で私をつまみ出してしまった。全く持って無礼千万な店である。客人をつまみ出すとは!
だが私は復讐することを諦め別の場所へと赴いた。
少し歩くとたこ焼き店があった。
するとその瞬間、私は下界の者どもに優雅に買い物を見せてヤロウという気持ちになり私はたこ焼き店へと訪れた。
しかしその全てが私を陥れるための緻密な計算に基づく罠だったことに当時の私は気づかなかった。
屋台に入り店主の顔を見るとそのオーラに私は圧倒されてしまった。なんという迫力!まさしく彼こそが人の獅子である。そんな彼に敬意を示して私はわざとビビったふうに「た、たこ焼きヲおひとつ…。」と言った。
そうして私はたこ焼き店の獅子に打ち勝ち無事にたこ焼きを手に入れたのだ。
その後、私は柄でもなく遊び幾つもの屋台から出禁と言い渡された。全く無礼な奴らである。だがまあ良い。何故なら私にはこのたこ焼きという素晴らしい戦利品があるのだから。
そして戦利品を高々掲げて笑い食べた。
その生地はサクサク香ばしく中はクリーミーでマイルドな味わいとタコの気味が良い歯応えが。
なるほどたまには世俗に浸かるのも良いかもしれん。
そう私が思っていると周りの人達がジロジロと私を冷たい目で見てくる。
私はすぐにその場を無表情で離れ目から汗を流した。
…もう一生外へは出ない。そうまた誓って。

この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。







4/27/2024, 10:24:34 AM