窓を開けて、空を眺める。
暁闇。夜が終わりを迎える時間。
紺から紫へ。紫から赤へ。変わる空のこの色が今はとても綺麗だと、そう思えた。
「そろそろ夜明けだ。もうおしまい」
背後から伸びる手が窓を閉める。
「もう少し。もう少しだけ」
「駄目。ほら、部屋に戻るよ」
もう少しだけ空を見たくて窓に手を伸ばす。けれどその手は背後の彼の手に繋がれて届かない。
意地悪だ。
そう思うものの、手を引かれればそれ以上わがままを言えず。大人しく彼に連れられて部屋へと向かった。
「まだ大丈夫だったのに」
ベッドに腰掛けながら、溢れた言葉。まだ物足りないと愚痴れば、手を引かれ袖を捲られた。
「大丈夫って。これが?」
露わになった腕に巻かれた包帯に触れ、彼は静かに問いかける。
「この前より、まだ早かった」
「ツキシロ」
低く名前を呼ばれれば、それ以上は何も言えなくなる。
繋がれていた手が離れ、腕の包帯が外されていく。隙間から見える爛れた皮膚。朝日の熱で燃えた跡。
「これから先、夜は短くなっていくんだから。もっと気をつけないと」
晒された跡に薬を塗り、幼い子を嗜めるような声音で彼は告げる。
「もうあんな思いは、嫌だ」
微かな呟き。
あの時の銀色の炎を、熱さを思い出して痛む胸に目を伏せる。
あの泣きそうな彼の表情《かお》を、声を、まだ覚えている。
「ごめん、なさい」
微かな謝罪の言葉に、彼は何も答えずに。
ただ薬を塗り、元のように包帯を巻いていく。
「クロノ。ごめんなさい」
「…いいよ。もう」
巻き終わった包帯を確かめるように一度撫で、そのままもう一度手を繋がれる。
痛みを伴う日の熱とは違う。穏やかな温もり。
「こうやって手を引いてれば、シロはいい子でついてくるし。最悪、抱えていけばいいもんな」
「っ、意地悪」
くすりと笑われ、手が離れる。
消えていく温もりに名残惜しさを感じながら。誤魔化すようにそっぽを向いた。
「そろそろ俺は帰るから…おやすみ、シロ」
最後にくしゃりと頭を撫でて、彼は扉へと向かう。
その背を見送りながら、繋いでいた手に唇を触れ。
この身を焼く事しか出来ない太陽よりも、彼がそうであるならばと。くだらない事を夢想して、一人苦笑した。
20240610 『朝日の温もり』
6/10/2024, 3:19:22 PM