だから、一人でいたい
だ、か、ら…一音ずつ区切ってゆっくりと何度言われても同じ失敗をする奴の顔を鏡で睨みつけて言う。
脱いだものは洗濯機の側まで何故運べない?シャツは裏返しのまま。帰ってきた動線上に点在する服に靴下、ハンカチはポケットにいつから入っている?鞄の中にあるものはゴミ?いるもの?私はあなたのお母さんでも専属家政婦でもないの。生活環境はキチンとしましょうね?
ガラガラ、ぺッ。うがいを終わらせるとフカフカのタオルを鷲づかみにして、まだ濡れて滴が残っていた顔をガシガシとふき首にかけたまま、冷蔵庫から缶ビールを取り出しソファーに移動し、テレビをつける。大相撲をみながら、プシュっと缶の口をあけ苦味とシュワシュワを味わい、フゥ〜と息を吐き出す。タバコを手にして、窓を見ると火をつけずに口に咥えた。
部屋にはテレビ以外の音がしない。外は雲のない月夜で星はその明るさで見えない。張り詰めたような凛とした世界だ。生ある者には入れない世界の入口のようだ。
タバコはベランダ!もう、何回言えばいいのかしら。
ビールは1本ね。食事はちゃんと食べないと身体に悪いでしょう!今日は、あなたの好きな魚があったの。煮魚にしたの。さぁ、食べて。
まだ、実感できない。君があの月夜の世界にいるのは。
覚えているから、君に言われた事。かみしめるから。
だから、一人でいたい。こんなきれいな月夜には。
7/31/2024, 10:05:33 PM