真澄ねむ

Open App

 ギルドの食堂で、アンネは遅めの朝食を食べながらレイナードとお喋りをしていた。そのときだ。
 食堂の扉がガンを蹴り開けられた。ギルドに常駐しているメンバーに、このようなことをする奴など一人しかいない。
 アンネが振り返ると同時に、レイナードが闖入者に向かって怒鳴りつけた。
「ナハト!」
 ナハトと呼ばれた青年は気にすることなく二人の方へと近づいてくる。
「扉を足で開けるなと何度言えば――」
 レイナードは思わず口を噤んだ。珍しく、ナハトが切羽詰まったような困った表情をしているからだ。彼はレイナードを無視して、アンネの方を向くと口を開いた。
「なァ、アンネ」
「どうされました?」
 にこりと微笑んでアンネは小首を傾げた。ナハトは何も言わず、彼女の方へと手を差し伸べる。アンネも何も言わずに手のひらを重ねた。
 ぐいっと引っ張り上げられて、そのままナハトは歩き出した。引きずられるようにしてアンネは彼の後をついていく。その二人の様子を見ていたレイナードは溜息をついて、再び食事を始めた。
 ナハトは食堂を出て、エントランスホールに入ると、そのままエントランスから出て行こうとする。アンネは困惑しつつも何も言わなかった。
 外に出て、少し歩いたところで彼は立ち止まった。茂みがあった。彼はそこにしゃがみ込む。
「ナハトさん?」
 彼はちらりと振り向いた。そのあと、何かを茂みから引き出した。それをアンネの目の前へと引きずると口を開いた。
「これ……どうしたらいいかなァ……」
 アンネはそれを見て目を丸くした。
「まあ、捨て猫ですか?」彼女は手を伸ばすと箱の中の一匹を抱き上げた。大人しくしている。「ギルドの他の人に訊いてみましょう。すぐに引き取り手が見つかりますよ」
 安心させるように彼女は微笑んだ。ナハトは不安そうにしつつも、ちらちらとアンネの腕の中と箱の中を交互に見ている。
「ナハトさんも抱っこされてみてはどうです? 人に慣れているみたいですから、大人しいですよ」
「……オレが持ったら潰しそうだからいいよ」
「そっと壊れものを触るときみたいに持てばいいんですよ」
 彼女の言葉にナハトは首を横に振った。
「……そんなのわかんな――」言いかけて、何か閃いたように彼女を見る。「そっか。アンネにさわるときと一緒ってこと?」
 アンネは再び目をぱちくりとさせたが、すぐに微笑むと小さく笑った。

1/15/2025, 5:34:18 PM