スリル
大人のあなたとわたし
会社の誰にも秘密の恋
同僚の披露宴に出席したあの日に
何人かで乗り合ったタクシーでの帰路
あなたは先に後部座席に乗り込み
わたしを自分の隣へといざなう
他の誰も疑いようもないほどごく自然に
驚きながらもその目に魅入られて
抗うことなく隣に滑り込む
ほどなく
わたしの振袖の袖下で見えないのを良いことに
誰にも気づかれないようにそっと
あなたの左手はわたしの右手を探し出し
優しく指と指を絡ませてくる
驚いてあなたの方に顔を向けると
いたずらっ子のように満面の笑顔を返してくる
それも滅多に見せない反則級のヤツ
瞬時にわたしの鼓動は高鳴る
他の誰かに気づかれやしないかと思うほど
顔も身体もカッと赤く熱くなって
お互いのぬくもりで掌が汗ばんでくるのがわかる
皆と他愛もない会話をしながらも
わたしたちの指と指は
ひっそりと別の会話を続けているみたい
幾度となく触れたことのある指なのに
お酒のせい?
優しく強く
そして今日はちょっと色っぽいその指が
いつもと違ったように感じられる
どれほどの時間が経っただろう
もうそろそろ降りなくちゃならないなんて
惜しむように指と指をほどくと
温かなものが失われていくみたいで切ない
すべてを離してしまうのが淋しくて
小指のほんの一部分だけをくっつけて
あなたの温もりを留める
ほんの数十分の
愛しくスリリングな時間
明日何もなかったような顔できるかな?
誰にも気づかれてないかな?
ニヤけてしまいそうで自信ないよ、わたし
あなたは余裕なんだろうな…
ズルい大人のあなた
11/12/2023, 1:38:55 PM