本棚の隙間

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田舎町に大雪が降り、一晩で一面、雪景色に変わった。

町を少し離れた場所、山道に続く開けた道がある。

左右に、田園があり春には、青い色の花畑ができ、夏は緑色の絨毯が広がる。

バートラムは、雪道を走った。あと3分で、鐘が鳴る。

この先に、廃墟になった教会がある。そこで、オーガストが待っている。

―――急がなければ!

雪に足を取られそうになっても、バートラムは走り続けた。その手には一通の手紙が握られている。

仕事を終えたバートラムが、家に帰ると扉の下に、一通の手紙が差し込まれていた。

差出人は、オーガスト。

『バートラム、君は僕に隠し事をしているね? 僕は、すべて知ってしまった。誰かが僕を見張る目。差出人のわからない手紙とプレゼント。僕は怖かったよ。怖くて死んでしまいたくなった。外が怖い。人も怖い。君とであった夜、とても驚いた顔をしていたね。あれは僕を見ていたのに、僕が君の存在を、気づいてしまったから、驚いていたんだね? 僕を見ていたのは君だ。そうだろう? そうとは知らず、君に相談して、守ってくれる優しい君に、僕は恋をした。何度も愛しあった。君が僕を苦しめていた人だとは、知らずに。それだけならよかったのに。僕らは許されない恋をした。バートラム、僕を愛しているなら、鐘が鳴るその前に、廃村近くの教会へ来て』

手紙と同封されていた一枚の写真には、二人の幼い少年が写っていた。

右側に写る少年の口元には、ほくろがある。この子はオーガストだ。

左側に写る少年の顔には、見知ったアザがある。

くしゃりと手紙と写真を握りしめ、教会へ走り出す。

あの写真の少年たちは、自分たちだった。

 

教会近くの廃村まで、たどり着いた。まだ鐘は鳴っていない。

息を整えて、オーガストを捜す。

廃村ということもあって、そこは崩れた建物が未だに残っている。

その向こうには、一面真っ白な、開けた平地が続いていた。

「……オーガスト」

冷たい冬の空気を肺いっぱいに吸い込み、教会へ走り出す。

ザクザクと雪が音を立てる。鼻が冷たい空気で痛む。

―――ゴーン、ゴーン、ゴーン。

鐘の音が遠くで聞こえる。空気を一気に吸い込み、腹の底から絞り出すように叫ぶ。

「オーガスト!」

パァン!

教会の方から、破裂音がした。バートラムの脳裏に最悪なビジョンがよぎる。

―――オーガスト、オーガスト、オーガスト。

教会に近づくたび、心臓がバクバクと脈打つ。やめてくれと脳が警告する。

どうか、あの破裂音が銃声でありませんように。雪の上に横たわる人が、オーガストではありませんように。

 

白い雪に鮮血が広がっていく。横たわるのは、口元にほくろのある若い青年。

「はぁ………はぁ……あ、あぁ……」

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

膝から崩れ落ちるように、バートラムは泣き叫んだ。

雪を握りしめ、何度もこぶしで地を殴る。行き場所を失った怒りと悲しみは、澄んだ雪に吸い込まれていく。

くたりと横たわるオーガストを抱きかかえ、頬を軽く叩く。

「お、オーガスト? ……ねぇ、オーガスト。私はここだよ? オーガスト。君に会いに来たんだ」

ぼたぼたと落ちる涙が、オーガストに降る。まだ彼の身体は温かい。けれど閉じられている瞳が開くことはなかった。

それでも、バートラムは、オーガストに話し続ける。

「オーガスト、ごめんね。私は君を苦しめてばかりだ。最低な私を、愛してくれた君といるのが怖くなった。知られたくなかった、見ていたのが私だと。だから手放してしまった」

オーガストを強く抱きしめる。身体は雪に熱を取られ、ぬくもりは感じない。

「逃げたんだ。君がから。けど今でも愛してる。君を誰よりも……。例え私たちが、生き別れた双子だとしても」

オーガストの手に握られていたピストルを手に握る。

「神が私を見放しても、この想いは消すことは出来ない」

にこりと微笑み、オーガストの唇にキスを落とす。

「愛してる。遅くなってごめんね。これからはずっと一緒だ……」

ピストルをこめかみにあて、引き金を引いた。

10/21/2024, 9:10:19 PM