君はいつも大袈裟だ。
やれ寝坊しただ、遅刻しそうだとベッドから起き上がり、洗面所へ駆け込む。俺に対してなんで起こさなかったんだなんて喚いて。いやいや、俺は声も掛けたし肩を叩いて揺らしたと答えれば、起きるまでやらないと意味ないじゃん! とダイニングテーブルをバンッと思い切り叩いた。やめなさい、壊れるから。
「だって、だって今日」
「うん、俺の実家へ挨拶だったね」
「間に合う!?」
「うん、間に合う」
だからゆっくり準備しておいで、ご飯はコンビニでもドライブスルーでもサービスエリアでもどこでも君の好きなものを。
ニッコリと答えると、君はホッとしたのか肩を撫で下ろした。着替えてくる、と君が部屋へ戻ったタイミングで俺のスマホが鳴った。母からだ。
「おはよう、ちゃんと起きたよ」
「おはよう。ねえアンタたち何時ごろ着きそう?」
「ごめん、少々トラブってまだ家の周辺なんだ。今日はこっちの道も混んでるし、まだいつ着くか分からないかな」
「って言いながらアンタ寝坊したでしょ」
「ははは」
感の鋭い母に思わず笑ってしまった。まあ、寝坊したのは彼女なんだけど。
母のため息が耳に届いて、そういえばと言葉がつながった。
「お父さんが夕飯寿司にしようって言ってるけど、彼女ちゃん生魚大丈夫かしら?」
「うん、彼女はなんでも食べるよ」
「アレルギーを聞いてるんだけど」
「特に大トロが好きだ」
「それアンタの好物でしょ!」
本当に彼女も好きなのだ、大トロが。むしろ俺たちは大トロでできた縁で結ばれているくらいなんだけど。
「じゃあ大トロね、たくさん入れてもらうから」
「了解した」
「じゃあ運転気をつけてね」
「うん」
電話を切ると、バッチリ化粧をして着替えた彼女が目の前にいた。今日も可愛いな、と思いながらコーヒーを一口飲む。
「道が混んでるなんて、嘘ついていいの?」
「大丈夫、俺が寝坊したと思っているようだし。大事にしたくないんだ」
実家で寿司を頼むのはかなり大事になっているのだが、君には内緒だ。父がやたらと大事にしたいタイプだからほとほと困る。
彼女は困った表情を浮かべて、ダイニングテーブルを挟んで向かい側に座った。
「それで」
「うん?」
「その寝癖のまま行くの? 結婚の挨拶だよ?」
「あ、」
そういえば、起きてからずっとコーヒーを飲んでいて、自分の支度を一切していなかった。俺は席を立って流しにマグカップを置くと、洗面所へと駆け込んだ。背中越しに君の笑い声が聞こえる。
今度は俺が慌てて準備する羽目になった。
『大事にしたい』
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(おおごと)
9/21/2024, 3:35:43 AM