いろ

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【もしも未来を見れるなら】

 テレビの中ではいかにも胡散臭い占い師が、貴方の未来を占いますなんて看板を掲げている。サブスクで配信されていたのを暇つぶしに再生したそれは、随分と昔のマイナーな邦画らしい。先クールに放送していた時代劇エンタメドラマの脚本家が若かりし頃に書いた作品だというから、試しに再生してみたのだけれど、今のところはあまり惹きつけられる要素は感じなかった。
「未来って、そんなに知りたいもの?」
 スマホで音ゲーに勤しんでいたはずの君が、気がつけば少しだけ視線を上げていた。意外に思いつつ、軽く肩をすくめてみせる。
「さあ。私に聞かないでよ。むしろ私は過去のほうが見たいタイプの人間だし」
「織田信長の死体の行方が知りたい、だっけ?」
「そうそう。あと徳川家重の女性説の真偽とか」
 歴史の謎を実際に確認できるというのなら、世の研究者の皆さまにはぜひともタイムマシンを早急に開発していただきたいものである。
「君は? 知りたい未来とかあるの?」
 私と違って君は歴史好きというわけでもないから、過去より未来のほうに興味があるのだろうか。素朴な疑問を口にすれば、君は「ううん」と唸りながら首を捻った。
「特に思いつかないんだよなぁ。未来って、知らないから面白いんじゃない?」
「それは同感。知ってどうするのって感じだよね」
 これから先も君と一緒にいるのかなとか、十年くらい経ったら転職とかしているのかなとか、そんなものは自由に想像して胸を躍らせているうちが華というものだろう。事実として未来を知ってしまったら、きっとこの世界はどうしようもなく味気ない。
 君は笑いながら「だよね」と相槌を打って、スマホの画面へと目線を戻す。音ゲーを再開しようとしたらしい君が、不意に何かを思いついたように「あ」と小さく呟いた。
「明日の通勤の電車、どのドアから乗れば座れるかは知りたいかも」
 なんとも呑気でスケールの小さな『知りたい未来』に、私は思わず吹き出してしまった。ああ、テレビの中の映画より、君の発想のほうがよっぽど面白い!

4/19/2023, 12:52:25 PM