「星空の下で」
「今日は雲がないから星がよく見えるな」
すっかり日が落ち暗くなった帰り道、西の空を指しながら彼は言った。
「ほら、ふたご座」
「……どれ?」
僕にはただ星が散らばっただけに見える空も、彼にはいろいろな絵が浮かんで見えている。
「それ。あの明るく並んだ星がカストルとポルックス」
永遠の命よりも片割れと共にいることを選んだ星の名を彼が告げる。
「ふうん。双子と言う割に似てないんだね。色も明るさも違うし」
「カストルとポルックスは双子じゃないらしいぞ。母親は同じだけど。それぞれに双子のきょうだいがいるらしい」
「へえ……。ん、どっちがカストルでどっちがポルックス?」
「青っぽいほうが兄のカストル。黄色っぽくてより明るいほうが弟のポルックス」
神の血が流れるからか、弟のほうが強い光を放っているようだ。
「じゃあ僕たちがあの星座なら、君がポルックスかな」
彼は眩しいから。
「嫌だよ。どっちかって言ったら俺はカストルのほうがいい。置いていかれるほうなんてごめんだ」
だいたい、俺たちは兄弟じゃないだろ。そう言って彼は顔をしかめた。
「あはは。……カストルは、ポルックスがしたことをどう思っているのかな。共にいることを望んだのはポルックスだけの意思だよね」
「さあ。でも今もこうして一緒にいるんだから、嫌ではないんじゃないの」
「……そうかな」
「そうだよ」
「そっか」
もしも僕がポルックスなら。きっと僕も同じ結末を選ぶ。その選択を肯定されたような気がして頬が緩んだ。
4/5/2024, 12:27:11 PM