『脳内』
目が覚めると、そこは知らない世界。
…なんてことはなく、ただの病院だった。
それにしても私、なんで病院にいるんだろう。
ぼんやりとしていた視界は段々と鮮明になり、
改めてやはりここは病院なのだと確信した。
そうして、側に人が居ることに気が付いた。
誰だろう、と思ったが私の側に居てくれる人間は限られている。
家族…両親と姉か、恋人のどちらかだ。
「………(ちかげ)」
そう声を発したつもりだったが声はでなかった。
どのくらい眠っていたのか皆目検討もつかない。
とにかく目が覚めたら喉がからからだし、体は重いしなんか痛いし。
隣に居るのはたぶん、恋人の千景だ。
眠っている気がするけど。
身体中が重くて動かない。いったい私は何をしたんだ。痛いなぁ…なんて呑気に考えながら動かそうと試行錯誤していると、千景がガバッと起きた。
「桜?!」
やっぱり千景だった。何故だか久しぶりに感じる千景の顔はやつれて、泣き跡がたくさんついていた。
私に何かあってからずっと泣いてたのかな。
そう思うと凄く申し訳なくなった。
自惚れとは思えないくらい、千景は私のことが好きだと思うから、心配になった。
とにかく看護師さんやらを呼んで欲しい。と思いながら千景を見ていると、伝わったのか、看護師さんを慌てて呼びに行った。
まだ身体が動かないので検査などは出来ないらしいが思考回路などはよく動いている。
すぐに私の家族も来てくれて、お姉ちゃんなんてぼろぼろ泣いてた。私そんなひどいのかな。今。
まっったく何があったか覚えていないから自分がどんな状況なのか理解できていなかった。
思考は正常なので説明が欲しい。
腕は動かないが首が動くことに気が付いたのでどうにか意志疎通が取れないか試してみた。
「…?なに?」
口パクで伝わらないかな。顔は痛くないし。
「………?
あ、もしかして状況を説明して欲しいの?」
さすが千景。普段から意志疎通してるだけある。
コクリと頷けたのかは分からないが、そのまま千景が話し始めたので頷けたのだろう。
「桜ね、………1ヶ月前に車に轢かれて」
1ヶ月前?!?!しかも轢かれたの?!
なんで顔が痛くないのか逆に不思議だ。
「道路に飛び出した子供助けようとして代わりに轢かれた。…説明して欲しいってことは覚えてないのかもしれないけど。その子は無事に生きてるよ。
ちなみに車の人も、子供のお母さんもお見舞いに来てくれてたよ。轢かれて飛ばされたからか頭を打っちゃったんだよね。…本当にもう、凄く心配したんだよ。」
ぼろぼろ涙を流す千景。
私の脳内はまるで事故に遭ったとは思えないほど能天気だけど、見た目は酷いのだろう。
お題:《目が覚めると》
7/10/2023, 12:39:50 PM