【言葉はいらない、ただ…】
わたしは醜いから、舞踏会に行ってはいけないらしい。
どこかの童話みたいに魔法使いがやってきて、都合の良い魔法をかけてくれるなんてこともなく。
わたしは裸足のままで遠くへ行くことにした。
色彩の失せた、白と黒の街。
壊れた鐘塔の下、落ちた鐘の前にそれは居た。
醜いばけものが、寂しそうに身体を縮こまらせて泣いている。
ばけものはわたしに気付いて、綺麗に並んだ牙を見せながら笑った。
怖がらないで、こっちにおいで。
言葉はわからないけれど、そう言っているように聞こえた。
ばけものは小さな花の世話をしているらしい。花びらの陰で妖精たちは踊っている。
わたしとばけものはおいしい紅茶と不思議なお菓子を楽しんで、妖精たちと戯れた。
ひとしきり遊んだころ、遠くで鐘が鳴った。
もう帰らなくちゃ。
そんな風に思ってばけものの方へ振り返ると、また丸くなって泣いている。
同じばけものでも、あなたに帰る場所はないのね。
ただその背中に寄り添って一緒に泣いてあげたいと思った。
8/29/2024, 11:50:58 PM