「こんな夢を見た」から始まる小説

Open App

こんな夢を見た。私は村の人たちに連れられ、ある場所へと向かっていた。着いた先には、古めかしい台座に剣が刺さっていた。
「これを引き抜け」
「何ですか、これ」
「これは聖剣だ。剣に、勇者として認められると引き抜ける。ともかく、剣の柄を引っ張ってみろ」
抜けるわけがない。私は、ただの武器屋の娘だ。不思議な力とは無縁だし、勇者の末裔でもない。抜けなければ諦めるだろう。私は剣の柄を握り力を入れる。ググッと上に持ち上げると、剣が動きそのまま引き抜けた。呆然としていると、周りから歓声が上がった。
「勇者だ!」
「この村に勇者が現れたぞ!」
呆然としている私をよそに、あっという間に旅の支度が終わり、村を出ることになった。
「大変だろうが頑張ってくれ。なあに、聖剣さえあれば死ぬことはない。聖剣は持ち主を守ってくれるからな」
調子の良い言葉に私は頷き、村を出た。村が見えなくなった頃、私は剣を鞘から引き抜き眺めた。これは、ただの鉄の剣だ。父の店の手伝いで武器の鑑定をしていたので、すぐに分かった。両親をモンスターの襲撃で亡くした私を体よく厄介払いしたかったのだろう。村の人を恨むつもりはない。最近、モンスターが増えて畑や家畜を襲われて食料が減っていた。だから、自分たちの食い扶持を守るためにしたことだろう。
「いや、そんなことはどうでもいい」
私は勇者という大義名分を手に入れたのだ。つまり、好き放題出来るということ。勇者として必要ならば、奪うことも正当化されるのだ。もう私は蹂躙される側ではない。剣を鞘に戻し、村を探すために歩く。剣だけではすぐ死んでしまうだろう。
「勇者って言うわりには、お金全然渡してくれないんだよなあ…」
ぼやいていると、近くの茂みが動いた。こっそりのぞくと、小さなオオカミ型のモンスターが毛づくろいをしている。しめた、今なら隙だらけだ。それに子どものモンスターなら、この剣でいい。私は剣を抜き忍び足で近づくと、モンスターの心臓を一突きした。動かなくなったモンスターを見、私は胸が高鳴るのを感じた。一方的に蹂躙してきたモンスターが動かなくなった。今まで剣を持ったことがない私の手によって!殺した恐怖や罪悪感よりも、高揚感に包まれていた。血まみれになった剣を振り、血を飛ばすと鞘に戻す。大丈夫、私なら出来る。興奮さめやらず私は鼻歌を歌いながら、近くの村を目指した。

3/20/2026, 9:01:07 AM