駒月

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 遠く遠く、誰も俺を知ってる人がいない街へ行きたくて。がむしゃらに自転車のペダルを漕いだ。
 夕方。これから塾の時間だから、きっと先生と親には怒られるとわかっていた。それでもあらゆるモノから逃れたくて、衝動を止められなかった。そういう感情、思春期の……なぁ、あるだろう?

 日が落ちて、辺りはすっかり暗くなった。
 足は疲れたし、腹はへるし。スマホを見ると不在着信の嵐だった。LINEでメッセージも来ていた。
 『何処いるんだ』?
 『帰って来い』?
 知らねーよ。
 俺だって何でこんなことしてるのかわからない。

 野球でもできそうな公園の広場に自転車を止めて、芝生に寝転がった。夜桜が散ってなかなか風情があるなとにやにやしていると、「何してんだ?」と声を掛けられ跳ね起きる。
 まさかこんな時間に自分以外に公園をぶらぶらしてる奴がいるなんて。見ると、自分と同じくらいの歳の男子だった。

 そいつも塾をサボったらしく、意気投合。夜桜を見ながら話をした。
 学校がめんどいとか親がウザいとか、だいたい愚痴だ。そいつも、今度転校することになって面倒だの何だの言っていた。
 見ず知らずの他人だから言えたのかもしれない。
 その後はどちらからともなく帰るわ、と言って別れた。


 桜が散り終わって、新年度が始まった。
 相変わらず塾をサボったりして怒られていた俺は、ホームルームの時間まで暇だったから、机に肘をついてあくびをしていた。
「おぅ、サボり野郎じゃん」
 上から声を掛けられ視線を上げると、公園で出会ったもう一人のサボり野郎がにやりと笑っていた。
「あー!お前!うちの学校に転校してきたのかよ?!」
「な!偶然だよなぁ」
 まさかのサボり同士の再会だった。
 俺と奴はお互いに顔を見合わせてへへっと笑った。
 この春からは退屈しないですむかもな?

 


【遠くの街へ】

2/28/2024, 10:57:44 AM