薄墨

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ぽたり、ぽたり
赤い液体が伝って落ちる。
黒い粘性の液体が、床にまとわりついている。

辺りはしんと静まり返っている。

膝を突く。
バキバキに折れたテーブルの残骸がひっくり返っている。

どろどろだ。
どろどろ。
手元の銀のナイフもどろどろ。
膝と足元と周りの空気もどろどろ。
どろどろだ。

君が不審死を遂げた、あの時あの場所で拾った指輪の石は、真っ二つに割れて、黒い粘性の液体を吐き出し続けている。
先が黒ずんだ銀のナイフの腹から赤い液体が伝って落ちる。
ぽたり、ぽたり。

君の死因が知りたかった。
君の変身の理由が知りたかった。
一ヶ月前に、部屋の中で死んだ君。
一週間前に、黒いモサモサした塊になって現れた君。

君の正体が知りたかった。

だから七日間、いろいろな手を使って調べた。
関係する各地を駆け回り、関係者に話を聞いて、君の部屋を漁り、図書館やネット上を探りまわって…。

そして、ようやく、ようやく、辿り着いた。真相に。
怪異を暴いた。
勝利だ。勝ちのはずだった。

でも現実はどうだ?
君はモサモサを逆立てて、椅子を蹴飛ばし、こちらに向かってきた。
窓のガラスが吹き飛んだ。
テーブルの上のマグカップが飛び散って、尖ったカケラが、指輪の黒々とした石のヒビに突き刺さった。
銀のナイフを握った右手は、勝手に君を貫いた。

どろどろだ。
どろどろ。
ぽたり、ぽたり。
君がナイフを伝って、黒い液体に吸い込まれていく。

考える。
考える。
頭は意識とは裏腹に、冷静に、理論を紡いでいる。

考えろ。
君の死を無駄にするな。

冷静沈着で、鈍感な脳が告げる。
「これは、最初から決まっていたことじゃないのか?」
「最初から、この物語の結末は決まっていたんじゃないか?」
「これが、最初から決まっていた結末。トゥルーエンド。本当の終わり。」
「だって、“たまたま”カップのカケラが指輪の石に突き刺さって、“ついつい”ナイフが君の腹に刺さって、どろどろが噴き出るなんて、僕たちみんなを呑み込むなんて、…七日間かけて気づいた理論が目の前で実際に証明されるなんて、そんな上手くいくことなんて、ある?」
「この終わりは最初から決まっていた。決まっていたんだ。指輪か、化け物か、何か別の強い力か…で?」

ぽたり、ぽたり。
君が液体になって、ナイフを伝って落ちる。
君が、黒い粘性の液体に染み込んでいく。
僕の膝を、黒い粘性のナニカがじわじわと呑み込んでいく。

どろどろだ。
みんな、どろどろ。
さいしょから、きまっていたとおり。

おめでとう。ほんもののさいごだ。

8/7/2024, 2:08:06 PM