星乃 砂

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《巡り逢うその先に》
        番外編
〈黒鉄銀次という男〉  ⑦

主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
   綾乃   (母 あやの)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
   大樹  (父 たいじゅ)
   蕾 (つぼみ 大樹の母)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)
 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立刑事     (あだち)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)
   詩乃   (義母 しの)
   巌    (父 いわお)

詩乃達の住む部屋はなかなか決まらずに1週間が経とうとしていた。
明日には蕾達は帰ってしまう。
何とか今日中に部屋を決めなければならない。
「詩乃ちゃん、昨夜母さんとも話したんだけど、いっそのことこの家に住んでくれないかな」
「えっ!」
「母さんも歳だし、私も義父と同居してるから頻繁に来る訳にはいかないし、詩乃ちゃんがいてくれると安心なんだけどな」
詩乃は少し不安になっていた。
本当にこの人達を信じていいのだろうか?
でも、部屋も見つからないし、この人達が悪い人とは到底思えない。
もう一度だけ、人を信じてみよう。
「本当にいいんですか?」
「もちろんよ。食費は出してもらうけど、家賃はいらないわ」
こうして詩乃達は蕾の実家に住むことになった。
蕾の紹介で仕事も見つかり、銀次は大樹と同じ幼稚園、同じ小学校に通いだした。
巌は銀次を強い子に育てようとしていたが、詩乃は優しい子に育つように心がけ、愛情を注いだ。
銀次はいつのまにか詩乃のことを‘母さん’と呼ぶようになっていた。
詩乃は忙しいながらも充実した時を過ごしていた。
だが、銀次が5年生のある日、蕾の母が脳梗塞で倒れた。
幸い命は取り留めたものの、左半身に麻痺が残ってしまった。
退院後、詩乃に全てがのしかかってきた。
仕事
子育て
介護。
ひと月ふた月経つにつれ、ストレスがたまり、ふと思った。
どうして私が他人の親の介護をし、他人の子供を育てなければならないのか?
その疑問がドンドン大きくなりついに爆発した。
その矛先が銀次であった。
あれだけ可愛がっていた銀次に暴言を吐き暴力を振るい、やがて子育てにも手を抜くようになった。
次第に銀次の帰りが遅くなり、ケガをして帰る日もあったが、詩乃は気にもしなかった。
3年後、トキが亡くなり、家を売るから引っ越すように蕾に言われ詩乃の中で何かが弾けた。
「銀次、お前のせいだ。お前さえいなければ、こんなことにはならなかったんだ。お前なんか拾うんじゃなかった。全てお前が悪いんだ。お前なんか死んでしまえ!」
銀次は家を飛び出し二度と帰ってこなかった。
引っ越しをし家は取り壊され、ふたりを繋ぐものがなくなり、詩乃はやっとひとりになれた。
だが、詩乃の心は虚無が支配していた。

           つづく

9/24/2024, 12:09:36 PM