イオリ

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ずっと隣で

 朝の散歩。冬が終わって再開。でもまだ空気がひんやり冷たい。目が覚める。

 コースは決まっていない。朝日に向かったり背を向けたり。決まっているのは時間だけ。

 公民館前に田んぼで挟まれた広い道路がある。交通量の少ないこの時間は、人気の散歩コースだ。僕も3日に1回はここを歩いていた。

 そこを歩くといつも、ある老夫婦とすれ違う。おはようございます、と必ずふたりで声をかけてくる。僕も返す。ただそれだけ。

 ある朝、またその老夫婦を見つけた。が、いつもと様子が違う。いつもはふたり並んで歩いていたのに、その日は旦那さんのほうが前を歩き、奥さんは距離を取って後を歩いていた。

 喧嘩かな。だとしたらすれ違うのちょっと気まずいな。などと考えながら歩いた。

 おはようございます、旦那さんが言った。いつもより小さな声だった。僕のおはようございます、も、つられて小声になった。

 続いて奥さんとすれ違った。

 ちょっと喧嘩中なの。奥さんは苦笑いで言った。

 なんと言っていいかわからず、僕も苦笑いを返しただけだった。

 わざわざ説明しなくてもいいのに。親近感を持っててくれたのかな。

 それから冬が到来して僕は散歩をサボっていたが、あのふたりは続けていたのだろうか。次に見かけたときは、また並んで歩いているといいな。

 

3/13/2024, 10:15:29 PM