燈火

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【さよならを言う前に】


幼少期から慕っている歳上の幼なじみが上京するらしい。
噂を耳にして、本人に確かめたから間違いない。
こんな田舎から会いに行くには、時間もお金もかかる。
高校生の身分では決して簡単なことではない。

つまり、しばらくのお別れになるってこと。
寂しさより、裏切られたような気持ちが強い。
「長い休みには戻ってくるから」君が眉を下げる。
信じられないよ。兄もそう言って卒業まで帰らなかった。

バイトしてお金貯めたらいいのよ、とお母さんは言う。
お父さんも、自分で会いに行けるぞって同意する。
でも、違うの。頑張れば会いに行けるのはわかっている。
ただ、私から行って鬱陶しがられないか不安なだけ。

君の家に遊びに行くたび、ダンボールが増えている。
今週末に君は引っ越しをして遠く離れていく。
その事実を実感させられて、やはり寂しさが募る。
このダンボールが消える日が、しばらくのお別れの日。

もう金曜日なのに「行ってらっしゃい」を言えていない。
君は時おり、ぼーっとして思考を飛ばしている。
どんな言葉なら納得させられるか考えているみたい。
結局、君も私も引っ越しの話題には触れなかった。

翌日、君の家の前にはトラックが停まっていた。
君と君のお父さんがダンボールを運んで往復する。
積み終えたトラックを見送り、リュックを背負う君。
もう行ってしまう。この町からいなくなってしまう。

最後のチャンスだ。ベランダに出て、下を見る。
「会いに行くから!」叫ぶと、振り返った君が見上げる。
「忘れないでね」他に伝えるべき言葉があるはずなのに。
こんな自分勝手な言葉で、君は明るい笑顔を見せた。

8/21/2023, 9:16:27 AM