薄墨

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「裸足でアザミを踏んづける!」
そんな言い回しを教科書で習ったのは、いつだったろう。

そんな言い回しが当てはまるような状況に、この歳でぶつかるとは思っていなかった。

新しい星が見つかった。
新種の生き物がたくさん息づいていた。
私の入った会社が部署が発見したその星には、我々がまだ知らない世界が広がっていた。

そんな所への探索なんて、いったい誰がしたいというのだろう。
否、いるのだ。
例えば、権力と資産を欲しいままにし、残りの寿命を持て余したボンボンとか。
例えば、死よりも好奇心と冒険心に靡いてしまうどうしようもないバカなのに、人員を動かせる力を持ったやつとか。
例えば、うちの上司とか。

上司の立候補で、うちの部署がその、まだ誰も知らない世界へ踏み込むことになってしまったのだ。

なんたることだ。
「裸足でアザミを踏んづける」なんて、痛い失敗に決まっている。
綺麗な花に反して鋭い棘が、足を貫いて、大惨事になるのは自明の理ではないか。

それでも、うちのバカで、愛らしくて、どうしようもない上司とそれらを尊敬するバカどもは、新星に、誰もまだ知らない世界にどうしようもない憧れと、無謀な希望を抱いて、アザミを踏んづけようとするのだ。

まだ知らない世界へ…。

だから、私も行くことを決めた。
救いようのないバカどもだけでは、すぐに全滅がオチだからだ。

私は明日から、新星へいく。
まだ知らない世界へ行く。
バカたちと一緒に。
バカなことと分かっていながら、アザミを踏んづけに行く。

私も大概バカなのかもね。
一人ごちた言葉を、風が何処かへ攫っていった。

5/18/2025, 4:30:42 AM