誘喜

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 ……僕は紅茶というものを飲んだことがない。午後の紅茶は、ある。その通の人からすれば、そんなもの紅茶のうちに入らないだろうか。
 すなわち、僕は“本当の”紅茶の香りを知らない。でも、なんとなくだけれど、紅茶って格好良いイメージがある。名探偵が飲んでそう(イメージね)。
 僕達人間は未体験のことを想像で補おうとする。

 朝、僕は母に起こされ目を覚ました(いつもは起こす側)。厨房からは紅茶の香りが漂ってくる(厨房も紅茶の香りも知らないが)。朝日に目を細める(細めたことなどないが)。

 どうだろう、この短い文章にこれだけの嘘が隠されているのだ。嘘で塗り固められたこの文章に貴方は疑いを抱かない。こんなもの、想像で補えるのだ。

10/27/2024, 10:11:35 AM