猫宮さと

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《梅雨》
幾日も続く曇天から降り続ける雨。
雨音しかしない通りに並ぶ、二つの傘。
濡れる足元にうんざりしつつ隣の横顔を覗き見ると、
ふと合う視線。見たこともない優しい笑顔。
顔が熱くなる。鼓動は、跳ねる雨水のよう。
慌てて傘を顔の影にする。赤い顔、隠せたかな。
やっぱり、雨でよかったかもしれない。
明日もこんな日が続くかな。

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長雨の中、誰もすれ違わない道を歩く。
すぐ横には、僕の目線の高さの明るい色の傘。
言葉はなくとも、ゆるりと解れていくような心地よさ。
かつて僕の頑なさ故に失いかけた存在に感謝しつつ見つめていると、
少し動いた傘からちらりと覗く、大きな瞳。
繋がる視線に浮かれて、つい顔が綻んでしまう。
残念、傘に隠れてしまった。
それでも、一瞬見えた貴女の染まった頬が雨空によく映えて。
ああ、僕は今、こんなにも幸せだ。

6/2/2024, 7:31:12 AM