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『粧』

いつものバイト先に出かけるために私は化粧をする。
鏡に映る自分は今日も汚れている。化粧は私にとって、汚れた私を綺麗に見せるための作業だった。自分を隠す手段でもある。私は“美麗”。私は“美麗”

「ふぁ~、美麗おはよぉ〜。」
[玲奈おはよ。今日早いね。]
「うん。今日ね、ソラくんとのアフターなんだぁ!」
[そっか。楽しんできてね。]
「美麗もバイト頑張ってね!」

玲奈と住み始めてからおよそ半年。お互いに苗字も知らない。それがお互い心地ちょうど良かった。

玲奈は世に言うホス狂というものらしい。
1人の男性とご飯に行くために。派手な装飾の着いたシャンパンボトルを開けるために。一体、何枚のお札が飛んでいくのだろうか。
私には玲奈が“ソラくん”にすがっているようにしか見えなかった。でも、それが羨ましい気もする。

ドアの前で自分の顔を確認する。バイトはどんな格好で行ってもいいので気が楽だ。
大丈夫。言い聞かせるように頭の中で唱える。

「行ってきます。」

本当の私を知る者は誰もいない。隠し通してやる。
覚悟を決めて私はドアノブを捻る


誰も知らない、おねぇちゃんのために。





【鏡の中の自分】

11/4/2024, 10:27:22 AM