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 さあ、4年に一度のオリンピック、ドジョウ掴みの決勝戦。
 果たして世界一ドジョウ掴みがうまいのは誰なのか?
 それを決める試合が、これから始まります。

 早速選手が入場してきました。
 先に入って来たのは――日本代表の柳下選手。
 『シャイニングフィンガー』の異名を持つ、恐ろしく早いドジョウ掴みが持ち味です。

 日本は十年前の優勝以来、いい成績を残せてません。
 不作の十年を超えた希望の星です!

 ですが!
 ここに!
 柳下選手がやってきました!
 
 奇跡をもう一度。
 日本中の期待を背負って、今エントリーです。

 対戦相手は、ツカミ王国代表、ド・ジョー。
 彼の持ち味は、一度掴んだドジョウは決して逃さない『ブラックホール』の持ち主。

 日本の優勝は――いえ、他の国々の優勝は彼の手によって阻まれました。
 10年間、チャンピオンの座を保持し続けた、不動の王!
 『ブラックホール』ド・ジョー、今エントリー!

 入場した両者は、ドジョウの泳ぐ水槽を挟み、礼をします。
 『シャイニングフィンガー』と『ブラックホール』。
 今、光と闇の戦いが始まります。
 果たしてどちらに勝利のドジョウは微笑むのか……

 審判が今、『開始』のコールをしました!

 おっと、開始直後にもかかわらず、両者はすでにドジョウを掴んでいます!
 私でなければ見逃していましたね。
 コレが決勝戦のレベル。
 これは波乱の予感です。

 二人は掴んだドジョウをバケツに入れ、再び水槽に腕を入れました。
 そしてドジョウを掴み――いえ、掴んでおりません。
 一体どういう事でしょう!?
 両選手、ドジョウを掴めないようです。

 掴まれまいとドジョウ、逃げ回ります。
 これまでの戦いで、毎回百匹以上捕まえている彼が苦戦しているー!

 異常事態!
 これは異常事態です!
 会場も騒然としています!

 まさか、これは……
 理論だけは提唱されていた、『ドジョウ進化論』!!
 『選手と同様に、ドジョウもレベルアップするのだ』という机上の空論。
 私は信じていませんでしたが、どうやら本当だったようです。
 ドジョウたちは生存競争を潜り抜け、誰にも掴まれない術を身に着けたようです

 両選手に焦りが見えます。
 無理もありません、
 ドジョウを掴むどころか、触れることすら出来ないのですから……

 両選手が手こずっている間も、制限時間は刻一刻と過ぎています
 今、柳下選手がドジョウを掴もうとして――
 ああっと失敗!
 ドジョウはスルリと逃げていきました
 かすりもしません。

 これは痛い。
 失敗のダメージは意外と大きいですからね
 引きずらないといいのですが……

 そして両選手がカウントを増やせないまま、時間は過ぎていきます。
 制限時間あと30秒!
 もう時間がありません。
 もしかしたら大会初、ドジョウの一人勝ち――いえ、一匹勝ちもあり得ます。
 どうなってしまうのかー!

 おっと柳下選手、目を瞑っています。
 どうやら精神統一をしているようです
 確かに、闇雲にやっても逆効果ですからね
 心を落ち着けるのは正解です

 ですがもう時間は無い……
 吉とでるか凶と出るか
 今、残り十秒のブザーが鳴ります!

 柳下選手、目を開け水槽に手を入れました。
 そして――おお、掴みました!
 そして試合終了のブザー。

 優勝は柳下選手で――
 待ってください。
 審判が柳下選手のドジョウを見ています

 まさか、これは……
 審判の判定出ました。
 ウナギです!

 柳下選手の掴んだものは、ドジョウではなくウナギです!

 ペナルティで一匹減点。
 とうことは、柳下選手0匹、ド・ジョー選手1匹。
 ド・ジョー選手の優勝だ。

 日本、またしても優勝逃す!
 奇跡はありません!
 二匹目のドジョウはいませんでした!


 ◇

「これが『二匹目のドジョウ』のエピソードよ。
 また一つ賢くなったね」
「へー(ドジョウとウナギ間違えたくらいで、ホラを吹かなくても……)」

~とある姉弟の会話~

10/3/2024, 1:07:14 PM