「1000年先も、いや、それ以降も、ここは人間との関わりのない、平和なところにしたい。
だから、見守ってくれないか、ルイス?」
人間たちの住むところから離れたこの地で、あのお人好し馬鹿の魔族は、人間嫌いの俺にそう言って笑う。
「人間が本当にここを放っとくと思うか?」
俺は顔を顰めた。
「全くそう思わない」
「おい」
「けど、人間は入って来られない結界を造ったし、しばらくは大丈夫だと思う。
襲われても放っとけば、あっちも諦めるだろう」
呑気な馬鹿に俺はイライラする。
人間の欲深さは竜である俺の想像を超えていた。
そんな人間なんて害しかもたらさないから、滅ぼした方がいいに決まっているのだ。
「ルイス、君が人間ごときに労力を割くなんて、徒労をする必要はないよ」
人間に対する侮蔑を隠さない目を見て、俺ははっとする。
そうだ、こいつも人間が嫌いだった。
「私たちは人間なんかが絶対成し遂げられない、平穏な場所を造るんだ。
だから、種族関係なく受け入れるし、仲良くできるよう努力する。人間と違ってね」
――そう決意を示した初代国王シリウスが造った国、ヒオン国はもうすぐ建国1000年を迎える。
様々な異種族が暮らすこの国は、諍いが全くないとはいえないが、概ね平和だった。
「……本当に1000年持ったな」
俺はシリウスの墓の前で笑った。
魔族の寿命は1000年。当時300ほどだったシリウスは、すでに帰らぬ人となっていた。
「お前の理想がどのくらい続くか、もう少し見守ってやるよ。
だから、あの世で待ってろ」
そう言うと、俺はヒオン国宰相の仕事に戻るために友人の墓の前から去った。
2/4/2024, 2:39:13 AM