山羊野

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日は昇り、日は沈み、あえぎ戻り、また昇る。風は南に向かい北へ巡り、めぐり巡って吹き、風はただ巡りつつ、吹き続ける。

風と言われると昔読んだ旧約聖書コヘレトの言葉のこの部分を思い出す。変わらない繰り返し、同じところを巡り続ける世界が描かれ、冒頭の「空しい」のリフレインに続いて徒労感を感じさせる文章だが、この風の部分だけは、読んでいると自分が風の視点で方々を巡り吹き抜けるような爽快さが一瞬感じられて、それで印象に残ったのかもしれない。同じところをぐるぐる回るのは嫌いじゃない。小さい頃行った田舎の水族館(何年か前になくなってしまった)には、ドーナツ型の水槽があった。年取った大きなサメが、いつみても一定の速度でゆっくりと水槽を回っていた。水族館に行った日の夜はサメのことを考えた、サメは今もぐるぐる回っているんだろうと思いながら眠った。コヘレトの頃から変わらず巡り巡って吹きつづけ、南だか北だか知らないどこかの空を吹いている風のことを想像すると、今でも少しだけ気分が軽くなる。それは作者が意図していたこととは違うかもしれないけど。

(風に乗って)

4/29/2023, 11:21:24 AM