雨に佇む(夏の風物詩)
夜にバス停で傘を差してもう一本傘を持ち、誰かの帰りを心待ちにする。
まるで宮崎映画みたい、と思いわたしは笑った。
「これで幼い妹でもおんぶしてたらまんまそれよね」
誰もいない暗闇に呟けども、返事はない。
この場面は確か、あの巨大な可愛い謎生物が背後に佇んでいて、傘代わりの特大葉っぱに滴る雨粒の音でぞわぞわする―――んじゃなかったっけ?
うろ覚えもいいところ。
「ふぁあーーぁ」
!?
えッ、トトロ!?
背後からの低いそれに勢い良く振り返ると、隣に住む見知った幼馴染みが自分と同じように手に傘を持って大きな欠伸をしていた。
「何よびっくりした………! 声かけてよ、驚かせないで!」
「ん? 気づいてるかと思ってた」
「暗闇から突然奇声が聞こえて、心臓飛び出るかと思ったわよ」
「あはは。よかったな、変質者じゃなくて」
………。笑い事じゃない。
わたしは不貞腐れて正面を向き、バスを待つ。
なかなか来る気配がなく、遅れてるのかな、と腕時計を気にかける。
「こんな雨降りの夜更けにバス停でバス待ってるって、まるでとなりのトトロだな」
「………そうね」
同じ思考を辿るのは仕方がないと思わせる程、シチュエーションは出来上がっていた。
あの田舎とまではいかないが、ほぼ車通りのない、寂しそうに揺らめく電灯の明かり。
まあ可愛いとはいえ、リアルであんなバケモノがいたら絶叫してずぶ濡れになりそうだけど―――?
「ん」
「あ」
気配がした、とかじゃない。
何気なく振り返ったのが同時だっただけ。
「………」
見た?とか、何あれ?って言わなかったのは奇跡だと思う。………わたしも、あいつも。
いや、そもそも見たと思ったのはわたしだけで、それすら見間違いだったのかもしれない。
「なあ」
「………なに」
「写真撮ったらやっぱバケモンが写んのかな」
………。
そうかもね、とだけ言ってそれからは二人して無言でひたすらバスの到着を待った。
―――やはりリアルであの可愛い巨大な謎生物とは遭遇しないらしい。
代わりにそれとはかけ離れた“何か”に、恐怖ではなく興醒めしているところが更にリアルで笑える、と
わたしは何とはなしにそう思った。
END.
8/28/2024, 6:21:50 AM