『脱稿した』
そんなメッセージと共に、漫画用原稿用紙を撒き散らし狂喜するスタンプが届いたのは、午後11時30分ちょうどのことだった。
『おめでとうございます』
ここ数日徹夜していたメッセージの送り主、瑠奈をとりあえず祝福する。ついでに『お疲れ様!』のスタンプも追加した。
『ありがとう 安心して死んでる
次のイベントちゃんと本出せます』
『よかったですね ルナ先輩あした学校来れそうですか?』
『わからん とりあえず寝るから起きれれば行く
レンカも早く寝なよ』
『おやすみなさい』のスタンプが送られてきて、あぁこれはマジで寝落ちるやつだな、と恋香は思う。
明日は自分が起こしに行かないといけないやつかもしれない。まあたっぷり寝て少しでも目の下のクマが薄くなればいいのだが。
翌朝。
いつものようにバス停へ向かうと、すでに瑠奈が来ていた。
「おはよーございます、センパイ……って、なんか、クマ濃くなってません?」
「あぁ、恋香…おはよう。実はちょっと寝てなくて」
「えっ!?昨日寝るって言ってたじゃないですか!」
いやぁ、と瑠奈が口をひらく。
「そうなんだけどさ、久々にツイッター開いたら見てなかった分いっぱい推しが出てきて……無限にスクロールしてたら朝になってたんだ」
うっわ……と苦虫を噛み潰したような顔になる恋香。
引く。流石に引く。
「これこそ朝チュンってな」
「本来の意味と違いますよね!?」
それは読者のオタノシミが大人の事情でまるっとカットされた時に使う言葉であるはずだ。知らんけど。
「昨日くらい寝て欲しかったのに……」
「はは、ごめんごめん。今日からはちゃんと寝るからさ」
と言いつつ瑠奈の手にはペンとノートが握られている。何を書いているのか聞けば、次の同人誌のシナリオだと返ってきた。
「もう!?早くないですか!」
「早くない。むしろ早割使いたいから早ければ早いほどいいんだ」
さらに瑠奈は言い放つ。
「終わってもまた始まる。それが同人活動なんだ」
ちゃんと休んでください!!と恋香の叫びがバス停にこだまするのだった。
3/13/2025, 4:06:27 AM