作家志望の高校生

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学校から帰る道の途中にある、古くて小さな一軒家。そこは、僕らの学校ではちょっとした心霊スポットとして有名だった。夏になると、よく男子たちが肝試しにここへ行って、やれ小さな女の子を見ただの、首を吊っている男がいただの噂を流している。僕も話に混ざりたかったけど、その子たちは僕のことが嫌いみたいで、近付くと僕を叩くから行けなかった。みんなはその噂を怖がっていた。でも、僕はちっとも怖くない。
「ごめんくださーい。」
カラリと少し錆びたような音を立て、今時珍しい柄入り磨りガラスの引き戸を引く。中は古びてはいるが清潔で、肝試しに来た者達の痕跡も綺麗になっていた。彼らはきっと土足で上がるだろうから、掃除も大変だろう。
「いらっしゃい。」
そう、この家には住人がいるのだ。仕事の関係だとかで、夜は家を空けているらしい。だから、肝試しに行く男子たちにも注意の一つさえ無いのだろう。にしても、それを学校に報告するなり、張り紙をするなり、何か対策をすればいいのに、といつも僕は思う。泥だらけの靴で乗られたフローリングを拭くのも、壁に描かれた落書きを消すのも、簡単じゃないだろうに。
「今日は何もしようか。」
穏やかな声が聞こえた。彼はあまり顔を見せたくないらしく、いつも襖越しに僕と遊んでくれる。畳の和室は、肝試しなんかで入られたら掃除が大変どころの騒ぎではないだろう。
「えっとね……うーん……なんでもいい!えへへ、お兄さんのお話、また聞きたいな!」
お兄さん、というのは僕の推測だ。声からして、僕のお兄ちゃんと同じくらいだと思うから、たぶん中学生か高校生。この家にはお兄さんの妹さんもいるのか、きゃあきゃあと騒ぐ、鈴の音のような可愛らしい声が聞こえる時もある。
「そう?嬉しいけど、ほんとにいいの?」
なんて言いつつ、お兄さんはまた面白い話をしてくれる。彼の話してくれる怪談のお話は、とても面白いのだ。
「あ……もうこんな時間!お母さんに怒られちゃう……僕もう帰るね!また明日!」
「……うん、待ってるね。」
うっすら、襖が開いた気がしたが、きっと気のせいだろう。お兄さんは、僕が襖を開けるのをとても嫌がるから。
次の日、また肝試しに行ったらしい男子たちが、真っ青な顔をして話していた。廊下の奥、左手側の和室の襖を開けたら、男子たちのうちの一人、よく僕を叩く子が突然いなくなったと。
そんなわけないのに、と僕はぼんやり思った。きっと、怖くなって一人で帰ったというのがオチだろう。僕は落書きのされた机を見下ろして、今日の怪談は何だろうかと、あの家に行ける放課後を心待ちにしていた。

テーマ:この場所で

2/12/2026, 7:20:47 AM