久々の再会にギクシャクしていたのは陽菜(はるな)ばかりで、一彰(かずあき)は以前と変わらず、落ち着いていた。
むしろ、年齢が性格や見た目に追いついたといったところか。
私服で出かけた時には、歳上の陽菜のほうが妹に見られることもあった。
さっき、店に入った時も店員は陽菜だけに年齢確認を求めた。陽菜があたふたしていたところ、さっと一彰の方が学生証を出してきて「お互い飲めない年齢で」と説明していて、恥ずかしい思いをしたところである。
ノンアルコールで乾杯してなんとなく近況報告やら、昔話やらしているうちに、陽菜もようやく、学生時代のように、自然に話せるようになってきた。
こんなに、穏やかに人と話すのって、いつぶりだろう。
陽菜はふと思った。
職場での人間関係は悪くない。仕事量が多すぎることを除けば、和やかな雰囲気で、それなりに雑談もするものの、なんとなく、深く踏み込んではいけない、暗黙の了解があるような気がして。
一人暮らしで、誰かとゆっくりご飯を食べるのも、そういえば久しぶりだな、と、思わず顔が緩んだ。
目が合った一彰は同じく微笑んでいた。
「…どうしたの?」
「いや、変わんないなと思って、安心した」
グラスを揺らすと、氷がカランと回った。
「本当は、連絡するか迷ってたんだ。便りがないのは良いことって言うしさ、なんかあったら連絡くるだろって、思ってたけど……」
「なに、心配してくれたの?」
「いや、俺が会いたくなっただけだよ」
予想外の返答に、陽菜は息を呑んだ。掴んでいた唐揚げがコロンと皿に戻った。
「お前は俺が心配しなくたって、どこでもなんとでもやってるんだろうけど、こうやってこっちから聞かないと、教えてくれないんだよなって」
一彰は目線を逸らさない。
陽菜は、目を逸らすことができない。
「俺のこと、たまには思い出してくれてたか?」
そうだった、こいつはそういうやつなんだ。
なんの躊躇いも狙いもなく、私を甘やかすんだ。
陽菜は一彰が誰にでも優しいことを知っている。
知っているのに。
深く息を吐いて、陽菜はニッと笑った。
「たまーにね」
「これからは頻繁に思い出してもらえるように、連絡する」
「ほんとー? 休みの日も遊びに行こうよ! 私友達いないから、大体家でダラダラしちゃう。私にも学生の遊び方教えてよ〜」
「俺も言うほど友達いないけど…まあ、行き先は考えとくわ」
笑って誤魔化すことが、癖になっていた。言葉を軽く受け取ったような態度をすることで、深く関わることを避けてきたのかもしれない。
暗黙の了解を作ってきたのは、陽菜自身なのだ。
「忘れる隙も与えないから、覚悟しとけよ」
友達であろうとする気持ちと反比例して、陽菜の心の深いところへ、一彰のコトバが落ちていく。
「ま、やってみな」
ずいぶん薄まったオレンジジュースを、陽菜は一気に飲み干した。
「落ちていく」
11/24/2023, 12:25:56 PM