導(しるべ)

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最近、何もかもが上手くいかない。
財布は落とすし、原稿用紙の下書きはほとんどが赤で染め上げられて返ってくるし、よく体のどこかしらをぶつけて痣ができたり。
そう言うときに限って、側に誰もいないのは良く有ることだけれど随分きつい。
薬に頼って眠ることも増えてきて、薬瓶の錠剤の減るスピードがはやくなった。
泣き崩れたくなる夜もある。
「どうしたの、先生?」不意に、声がした。
「…晶くん。また夜更かししてるの?」
そう聞くと、彼はばつが悪そうに目をそらした。
「最近、思ったようにいかなくて。ちょっと気分転換にお酒でも飲んで大人しく寝ようかなぁと思って」
「君、お酒弱いんじゃないっけ」
「弱いけど…なんか気分転換に飲む分にはすごく良くて」
先生も飲む?、と問われたら、僕は肯定しか出てこないことをこの子は知っている。
ずるい子だ、と心の中で笑った。
「もちろん、久しぶりに飲もうかな」
僕がそう言うと、そうこなくっちゃと言わんばかりの顔で二つのグラスに酒を注いでいた。
「やった!先生、酔い潰れないでよ?先生の介抱大変なんだから!」
「分かってるよ。流石に二日酔いは勘弁だからね…」
「……さ、何も上手くいかないもの同士、今日はぱぁっと飲んじゃお!」
乾杯、の声と共にカツンとグラスのぶつかる音が部屋に響く。

8/9/2024, 10:39:06 AM