スリル
戦闘において、スリルは常に傍にあるものだった。それが普通でないと知った時には、既に手放すには惜しい代物になっていたのだから笑えない。血を求め肉を裂き、それこそ本能のままに生きる獣のように。忘れられないあの匂いが、感触と音の全てが掴んで離さなかった。まるでそのために生きているこのように、衝動のまま戦闘に身を投げ出して、気づいた時にはやたら仰々しい肩書きまで背負ってる。
心配そうな顔をする友人がいる。仕方がないと零して、呆れた顔をして頬にこべり着いた赤黒いそれを拭って。はいできた、なんて微笑む姿が心底可愛らしいものだから、その度に頭を少し乱雑に撫で回しては怒られる。スリルとはまた違った安心感と居心地の良さに、これが幸せってやつなのかな、なんてらしくないことを思いながら。
少し湿った、消して歩き心地がいいとは言えないそこに一歩踏み出した。見上げた空は相変わらずの曇天で、それがなんだか、逆に自分らしい気がして。中途半端同士お似合いだね。誰に言うわけでもなく、変えるでもなく。
ちゃんと幸せだった。けれど、まだスリルを忘れられない。
11/13/2024, 1:13:09 AM