あにの川流れ

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 何だか、寝苦しい。チリチリと肌を焼くような、そんな小さな痛みがどんどんと広がってゆく。寝返りを打つ余裕もなく顰めたまま、瞼を開けた。
 カーテンをしているというのに強い朝陽に照らされた室内。そんなに寝坊したかしら。

 廊下に出ても熱さは和らがなかった。
 リビングに続く引き戸を。

 お気に入りのソファに座っているあなた。ベランダに抜ける掃き出し窓の外が赤い。直接光を当てられているかのように、光を遮っているあなたは真っ暗い陰にしか見えないくらい。

 「今日はなんだか暑いですね……」
 「うん。おはよ」
 「お早うござ――――ッ⁉」

 ひどい肌。
 振り向いてへにゃりと笑ったあなたの肌は、熱く爛れていた。
 ギョッとして。けれど、あなたは「きみもね、随分ひどいお顔」と言うから。

 ジジッ……テレビがノイズ交じりに映す映像。
 赤く、赤く、時折やさしい光。ひたすら、溶かすだけのそれが大きく映し出されている。それを実況しながら、アナウンサーが何度も繰り返している。

 『急激な爆発を起こした太陽が、昨夜から我々の星に向かって接近している模様です。えー、専門家などの結論として、あれほどの速度と熱に耐えられる物質はないとし、宇宙船の打ち上げによる避難も到底叶わないとのことです。繰り返します、えー、只今――――』

 バタバタと騒がしい音に、途切れ気味な映像と音声。なるほど、この世界は終焉を迎える真っただ中なのか。
 そう得心した瞬間に、ゾッとした。

 「どうして起こしてくれなかったのですか」
 「それがいい、って思ったから」
 「わたくし、能天気に自分のことだけ考えて死ぬなんて嫌です」
 「ぼくはきみに穏やかに死んでほしかった。ぼくの気持ちも汲んでほしいの」
 「……」

 わたくしがあなたの立場なら、きっと、同じようにしたでしょう。もう終わるという頃にお気に入りの場所を離れて、あなたの傍に。

 何も言えなくて。
 あなたのとなりに腰を下ろした。こだわった座り心地は抜群で、なぜか、買って次の日にあなたがコーヒーをこぼしたのを思い出す。
 これも焼かれてなくなってしまうのか。

 ヂリヂリ、どんどんと熱が増して。
 呼吸をするのも嫌になってくる。暑いのに、熱い空気しか喉を通らない。焼けてゆくよう。
 今なら水道から直接あたたかいコーヒーがつくれるんじゃないか、とバカをやったのが遠い遠い昔のようにさえ思える。

 だんだんと目を開けているのも大変に。
 あちこちが痛む。

 「ね、きっと、もうすぐ終わり。ぎゅってして」
 「わたくしも、そうしてほしいです」

 互いに抱きしめ合って。いつもは低いあなたの体温が今ばかりは熱い。こんなに熱いのに、離れることは考えられなかった。
 心臓の音が聞こえなくなるなんて、考えてもいなかった。

 「けっこうつらいね、熱に強いのも」
 「さらに強い熱で焦がれるなんて、お笑い種です」
 「んふ、ほんと」

 あなた越しに。

 「今度はさ、もっと肌の弱いいきものになろ。熱の恵みじゃなくて、水の豊かな、赤い星じゃなくて、青色のきれいな星で、ゆっくりしたい」
 「わたくしはどこでも」
 「じゃあ、ぼくといっしょ」

 あなた越しに、空が爆ぜるのを見た。
 流れるような火の線。三回も同じことなど言える速さではないのに。なぜか、長く感じられた。
 とても、とても長く。

 熱いと漏らしながら笑うあなた。

 「また、あとでね」
 「ええ、きっと」

 目がチカチカと眩む。
 ああ、この眩しい太陽に殺されるのだと。




#太陽のような



2/23/2023, 5:02:50 AM