白糸馨月

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お題『ハッピーエンド』

 人生にハッピーエンドなんてあるわけがない。
 映画やアニメ、本を読んでいてやれ『ハッピーエンド』とか言われているが、生きていてそんなドラマチックなことが起きるかと言ったら、答えはNOである。

 そんなことを考えながら日々を過ごしていた。推しのライブに行くまでは。

 私には歌い手の推しがいる。彼はとてつもなく人気で、彼が所属しているグループがライブやることを発表した時、TLがわいた。
 私にはリアルどころか、オタクの友達も一人もいなくて、でもライブには行きたかった。チケットの抽選に応募したら、倍率がめちゃくちゃ高いだろうに当選して、一生分の運を使い果たしたと思った。

 ライブ会場のキャパは、そこそこにある。そこにぎっしりファンがつまっている光景は壮観だった。
 私は推しのカラーの赤いペンライトを持ち、『撃ち抜いて』と書いたうちわをもう片方の手に持って心臓を高鳴らせながらライブの開演を待った。

 ライブが始まった時、それはもう言葉に言い表せないほどだった。歌い手グループだから皆、歌唱力が高いのは当たり前――口から音源かと思うほどで、カラフルなライトに照らされた推しがイケメンの姿を借りた神様に見える。
 そんな時、客降りが始まる。メンバーがステージから降りて客席の前を歩いていく。私は端の席だったが、彼等は皆びっくりするほどスタイルがよくて腰が細かった。なにより皆、美しかった。
 そんな時、推しが近くに来たのを目にする。私は黒地に赤い文字で金の装飾を頑張ったうちわをかかげた。ちょうど横に来た推しが私を見て、目をぱちくりさせる。
 実際の時間は一瞬だったと思う。でも、推しと目が合ってる時間がすこし長く感じられた。
 かと思ったら、推しがいたずらっぽい笑みを浮かべて手を拳銃の形にすると「バァンッ!」と撃つ真似をしてくれたのだ。
 私がいたブロックから一斉に悲鳴が上がる。手を振りながら去りゆく推しの姿を見る。

(あっ、今なら死んでもいい)

 神様みたいな推しに相手してもらえて、オタクの悲鳴に包まれて、今私は推しに殺されたと思いたい、今この場で倒れたくてたまらない。人生のハッピーエンドとはこういうことなんだと実感した。

3/30/2024, 2:34:42 AM