「ゆかりさん、はい乗って」
新しいスリッカーを片手に膝を叩く。
彼女—縁(三毛/3歳/メス)は非常に利口だ。指示通り俺の膝へひらりと乗った。
この時期になるとゆかりさんの抜け毛は増量する。なので俺がその”衣替え”のお手伝いをする。
ここでフォローしておくが、彼女は決してズボラなわけではない。毎朝しっかりと顔を洗い、毛繕いも欠かさない。
逆を言うと、彼女が美意識高く居続けると、身体中舐めまわし、部屋中が毛玉だらけになってしまうというわけだ。
なので、お手伝いと称して彼女のブラッシングを定期的にしているのだ。この時期は特に念入りに。
「どう?前回のラバーブラシより気持ちいい?」
「にゃあん」
ゴロゴロと喉を鳴らし嬉しそうに答えるゆかりさんに俺は満足げに頷く。
彼女の背に彼女の頭と同じくらいの毛玉がモコモコと出来上がっていく。
「もう冬が来るねぇ」
ゆかりさんは三毛だから、俺が黒を着ても白を着ても抜け毛が目立つ。なんせ毛色が三色もあるオシャレさんだから。
だが、ようやくこれで夏服に着いていた毛ともおさらばだ。ブラッシングしまくって、衣替えをすれば暫くは抜け毛の付いていない服を着られる。
俺はウキウキしながら彼女のブラッシングを続けた。
—そんな苦労など、二日も持たないなどとは…つゆほども知らずに。
≪衣替え≫
10/22/2024, 1:31:22 PM