すらりとした背中。
左右に大きく見える肩胛骨。
盛り上がり、向かい合ったなめらかな曲線を見ていると、「昔はみんな、背中に翼があったんだよ」というおとぎ話も信じてみたくなってしまう。
「·····くすぐったいよ」
無意識に伸ばしていた指でそっと撫ぜると、相手は小さく笑って身をよじった。
「すいません」
引っ込めた手を見つめる。彼の少し低い体温に触れた感触がまだ指先に残っている気がした。
私達が昔持っていたという翼は、どうして無くしてしまったのだろう。
飛ぶ必要が無くなったのか、飛ぶ事を忘れてしまったからか。
飛べなくなった私達は、地上で手を取り合いながら、どうにかこうにか生きている。
「前から思っていたけれど」
「なんです?」
「君の髪·····絵画の天使みたいだ」
彼の長い指が私の前髪に触れる。
「ならば私達は二人共、元は天使だったのかもしれませんね」
「·····なんだいそれ」
困ったように眉を寄せながら笑う彼に、私は何故だか胸が苦しくなるのを感じた。
END
「飛べない翼」
11/11/2024, 3:05:29 PM