母が倒れた。突然の事で理解が追いつかないぼくに、医師は余命宣告を告げた。1ヶ月だ。
「お母さん心配よ、テスト大丈夫?」
本当にあと1ヶ月なのか。病院のベッドにいながらいつも自分の事ではなくぼくの将来を心配している母の姿を見ていると全部ドッキリなのかと思えてしまう。
「あ、学校サボろうなんて考えちゃダメよ。ちゃんとあんたには学校に行っといて貰わなきゃ」
その1ヶ月はもう二度と戻ってこない。なのに、普通に生活しろと母は言う。
「あんたが"学年1位"とか取ってくれたら、お母さん安心出来るのになぁ───」
その瞬間、電流が走った。
残り1ヶ月。1ヶ月後にちょうど期末試験がある。その時に母が生きているか分からない。でも、最後の手向けくらいにはなるはずだ。
部屋の照明を付け、筆記用具を取り出し、教材を取りだして勉強に取り掛かる。ぼくには分かる。クラスで1番、いや、学年で今1番心が燃えている。誰よりも優れ、誰よりも圧倒的で、誰よりも高い点数を取る為に。他でもない母の為に。
中庭の掲示板に成績が張り出された。
「……っ!」
その時携帯が震えた。父親からだ。ちょうどいい、自慢してやろう、何せぼくはこの学校で1番の───。
『母さん、たった今……息を引き取った』
嗚呼、そうか。目頭がぐっと熱くなる。
「母さん。1位取ったからって、安心するのは早過ぎだよ……っ」
目から光が零れそうだった。滝のように留めなく、行き場を失った熱量がわっと溢れ出るように。空を仰いだ。生前の母に似合う澄み渡った青空だ。
見ていてくれたかな母さん。ぼく、頑張ったよ。誰よりも頑張った。1番になったんだ。
いや、まだ終わりじゃない。これからも、もっと頑張ろう。母さんが安心出来るように、魂がここに留まる事のないように。
「……っ」
ぼくは、母さんが倒れて以降初めて泣いた。
2/17/2023, 3:02:02 AM