『鳥のように』
空を飛ぶ鳥が幼い頃から好きだった。だから軍艦よりも戦闘機が好きになった。戦闘機に乗ることが出来たなら鳥のように空を駆け巡れるし、お国のために敵機を撃ち落とすことだってできる。外国で戦っていた大人たちが華々しく凱旋してくるのを見たときには誇らしい気持ちになり、その夢に一層強く憧れたものだった。
人ひとり分としてはとても狭い操縦席に体を押し込めて耳を澄ませると、エンジン音に紛れてかすかに万歳三唱の声が聞こえてくる。滑走路から重たげな機体が地上を離れる感覚に憧れていた飛行機乗りになったという実感は湧いたが、心はつめたく冷えていた。
機体に積まれた爆薬と僅かばかりの燃料に鳥のような自由さは無く、迎撃用の機銃さえ積まれていない戦闘機では敵機を撃ち落とすことは不可能だった。目の前に広がる大空は青く美しいのに、それを美しいとも思えない。悲しいのかも分からず涙も出てこなかった。
燃料の底が見えてきた頃に特攻目標の軍艦も見えてきた。軍艦から放たれる対空砲にいくつもの翼が爆風に散っていく。思い残してきたことがいくつも脳裏を駆け巡り、空を飛ぶ鳥のように自由でありたかったと最後に思った。
8/22/2024, 4:26:45 AM