【澄んだ瞳】
ずっと忘れられない瞳がある。これから首を落とされるというのに、怯えた様子ひとつなく。堂々と背筋を伸ばし、刑場へと歩んでいく人の。
腰の刀に手をかける。罪人の首を斬り落とすのには慣れていた。物心ついた頃からずっと、そのためだけに剣の腕を磨いてきた。ああ、それなのにどうして。
かたかたと指先が震える。君を殺したくないなんて、馬鹿げた思考が頭の中を明滅して仕方がない。罪とはいったい何なのだろう。幕臣を非難するような文章を書いたこと、それは本当に首を落とされるほどの罪悪なのだろうか。
僕の迷いを見透かしたように、君はちらりと僕へと視線を向けた。美しく鮮やかで、澄み渡った瞳だった。
「さようなら、よろしくね」
小さく囁いた君の瞳。僕がこの手で閉ざしたその色を、今でも僕は思い出す。大切に大切に、胸に抱き続けている。
(大好きだったよ、ずっと)
届けることのできなかった君への慕情を、じくじくと膿んだ胸の中へとたゆたわせた。
7/30/2023, 10:23:21 PM