小さい頃、鳥になりたいと思った。
「頑張れ〜!!千恵美!!」
友人の声が遠くの方から聞こえる。他にも口々に私の名前を叫ぶ後輩や先輩、顧問の先生の声も聞こえた。
私の目の前にはまるで壁のようなバーがある。そして手にはポール。風が少し吹いているものの、障りはない。天気もこれ以上ないほどの快晴で、高校最後の大会にふさわしい日だ。
ポールを握った手を強く握る。唾を吐いて息を整えると、きっと前を見つめ、走り出す。
練習したように、走ってポールを地面について、飛ぶ。まるで鳥のように、高く高く。もっと高く。
ぐんぐん空に近づいて、後少しで天にも届きそうなくらいになって重力が私を引き戻す。
マットの上に落ちた私は、ぼんやりと空を見上げてから起き上がった。周りからは歓声と拍手の雨。
結果は自己ベストで大会ベスト。嬉しい。それと同時に、飛んだ時の感覚が忘れられなかった。空がぐんぐん近づいてきて、まるで鳥のように高くもっと高くと天をかける。
「千恵美?千恵美!!」
「え?」
ぼーっとしていたらいつの間にか大会が終わっていた。目の前には大会の最中必死に私の名前を呼んでくれた友人がいる。
「え?じゃないわよ!優勝したお祝いに、どこかに食べに行こうって言ってるの。どこに行きたいとかないの?」
友人に肩を持たれてグラグラ揺らされて、いよいよ現実に戻ってくる。
「えー、うーん、なんでもいい」
「なんですってー?!」
そのまましばらく肩を揺らされながら空を見上げる。すっかり茜色に染まった空を黒いカラスが自由に飛んでいた。
いいなあ。
「千恵美ー!!またぼーっとしてたら置いていくわよ!」
「はいはい」
友人の声に引き戻されてまた現実を歩き出す。またあの感覚を求めて、私はこれからも空を飛ぶのだろう。
10/14/2024, 10:53:08 AM